最新インプラント 保険の解説!
現代医学・医療の体質、とくにそのネガティブな側の特質について、いくらかの吟味をここで加えておく必要がありそうに思われます。
現代医学に対する最も一般的な批判は、医者は病気をみて患者をかえりみないといます。
医者は本来、「疾患」だけでなく「病い」にも、まして病気だけでなく人間としての患者にも責任をもたねばならないはずですが、「科学者としての医師」はともすれば、あいまいでとらえ難い患者の「人間」を捨象して教科書的に扱いやすい「疾患」だけをつまみ食いしがちであるように見えます。
それが最も親しい仲間であるはずの看護婦たちをもいらだたせたらしく、ひところ医者と看護婦との受け持ち区分を峻別しようとする主張が看護婦の間にはやり「患者の病気は医者に、患者の人間は看護婦が」というような機械的二元論がまかり通るかに見えたことがありました。
しかし患者が医療機関を訪れるのは、単に人間だからではなく、病気のためであることは全く自明のことです。
患者から病気を切りはなすのが抽象なら、患者から人間だけを取り出してそれを相手にしようとするのも、同じように抽象であるというべきでしょう。
医学が進歩したのは病気を患者から引きはなしたからである、といえなくもないのです。
医学はもともと医療と一つのものであって、病いに悩み苦しむ同胞への共感、同情からはじまったものにはちがいありませんが、鴎外が「カズス(一つの症例)として取り扱って、感動せずに冷眼に視ているところに医者の強みがある」といったように、感情をおさえ、つとめて客観的な立場をとり、病気を、いわば人間をはなれた一種の自然現象としてとらえ、すでに確立していた自然科学的な概念と方法とを可能なかぎり活用したところから、近代医学が芽生えたといってもいいすぎではないでしょう。
そして人間べったりの時代の医学からはとうてい期待することのできなかった輝かしい成果が、いわば多かれ少なかれ人間ばなれを許した近代医学のシステムのおかげでもたらされ、昔ならとうてい回復のおぼつかなかった患者が回復し、人類の平均寿命が著しく伸び、結局は人間そのものの大きな幸福につながったわけですから、あまり不平をいえた義理ではないことは確かです。
五〇年前の病人、一〇〇年前の人間に比べて、現代人は一般的にいってはるかに能率的な日の医科大学を出たての若い人間としての成熟度も、臨床経験そのものの蓄積の程度も低い医者の方がより良く患者を治していることも確かです。
個人としての医者の能力が治しているのではなく、いわば今日の医学の水準、医療の水準が治しているのです。
端的にいえば、薬や機械装置が、ある意味では人間的条件を超えて病気を治しているのです。
つまり、医療が徒弟的な訓練にだけ支えられた技能ではなくなり、伝達可能な近代技術として自らを形成したおかげです。
近ごろの分子生物学や生命工学の進歩は加速度的で、長いあいだ人間にとってタブであった生命のからくりが次とあばかれさらにそれを人工的に操作することが、ある限度で可能になりました。
それを踏まえて、当然、医療の場面でも将来の画期的な飛躍が期待されるはずで、事実、私たちはすでにその恩恵の一部を享受しているのです。
それにもかかわらず、自然科学としての医学、いわば人間ばなれをした医療の進歩のあまりに荒しい足どりに、多かれ少なかれ危惧と不安を人類社会が感じはじめていることも否定できない事実のようです。
遺伝子組み換え、臓器移植、尊厳死など、今日の医学の最前線にある課題の評価については、市民の間でも医学専門家の間でも、たやすくはコンセンサスが得られるようには見えません。
もともと病気に悩む人を救うための学問であったはずの医学の進歩が人間のあり方についての理解を混乱させ、先行きについての戸惑いや、一種の恐怖感が生まれはじめているようにも思われます。
一方、日常診療の場でも、医学が進歩したにもかかわらず、あるいは進歩した琵詣≒姦白字患者関係における混乱、行き違いが絶えないようです。
それにはいろいろな原因があるわけですが、科学的医学の旗手を以て任じている現代の多くの医者が手なれた方法論で処理しやすい疾患に着目し、人間としての患者のこまごまとした訴えを切りすて、効率的ではあるが暖かみを欠いた医療に走っているからである、と考えている人が多いようです。
悩みとしての病いをまるで爽雑物であるかの如くはねのけてしまいがちですし、型にはまった治療で良くならなげれば医者ではなく病気の方が悪いのだ、として片づけがちであること、医療技術の切れ味が良くなっただけリスクも大きいことなどが、現代医学に対する不満・不信のよって来るところのように思われます。
いわゆる西洋医学から測り知れない恩恵をこうむっていることを忘れたわけではないのでしょうが、医事紛争がふえる一方ですし、一部では東洋医学や民間療法が、より頼り甲斐があるかのようにもてはやされ続けています。
科学としての医学の進歩を喜びながらも、それが一人一人の具体的な患者に結びつく場面には、問題と不安とが多いようです。
医学と医療との間に隙間風が吹きこんでいるかのようです。
日本では、医学は疾病についての学問であり、医療はその学問の患者への二次的応用であるとして区別し、まるで医療の段階に至ってはじめて「人間」が登場するかのような理解がまかり通っている場合が多いようですが、このような二元論人間を二次的にしか扱わない整理の仕方は、医学の本質からいって正しいこととは到底思われません。
医学はもともと病気に悩む人間をケアし、助けるための学問であり技術でした。
ところが医学の場合は、古くから大学の中に神学や法学とともにその重要な柱の一つとして存在していたのです。
つまり医学は、はじめから人間の学問として存在したのです。
研究の手段・過程としては、多かれ少なかれ人間ばなれ、患者ばなれも許されるようにはなりました。
けれども医学という看板をかかげる以上は、それぞれのレベルで、まるごとの、生身の人間(患者)との間の絶えざる往復によって事実と法則の検証、修正が行われなくてはならないはずのものですから、医学と医療を一体として考える立場を私はとりたいと考えるのです。
必要な場合はむしろ直接診療にかかわるか、かかわらないかで、臨床医学と基礎医学に分けることにしたいと思います。
したがって本書では「医学」と「医療」とをほとんど区別せずに用いますが、今までの習慣がありますから、日常診療にかかわる場面ではどうしても「医療」という言葉を多く使うことになるでしょう。
この節の最後に、医療の専門分化に伴って患者の「人間」への配慮がいっそう重貼唱要性を増してきたことを付け加えておきたいと考えます。
「医者は病気、看護婦は人間」というような奇妙な分業論がかつて現われたことはすでに述べましたが、ソーシャルワーカーや心理士など(外国の場合は、宗教家も病院に出入りします)が加わると、ともすれば患者の「人間」はこれらの人たちにまかせておいて、医者はますます「疾患」に専念できるかのような錯覚ないし誤解が生まれかねません。
もちろん患者の精神や心理や福祉について専門家の協力をうることは組織医療の建て前上望ましいことではありますが、患者の「人間」については数多い医療関係職種のそれぞれが、すべて責任をもたなくてはならないはずです。
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